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東京地方裁判所 平成2年(行ウ)40号 判決 1991年6月26日

原告

八重洲リハビリ株式会社

右代表者清算人

溝呂木商太郎

右訴訟代理人弁護士

柴田政雄

山口宏

被告

日本橋税務署長工藤清春

右指定代理人

若狹勝

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、原告の昭和六〇年一一月三〇日から昭和六一年八月三一日までの清算中の事業年度に係る法人税について平成元年五月三一日付けでした無申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一当事者間に争いのない事実

1  原告は、昭和六〇年一一月二九日、東京地方裁判所から破産宣告を受け、弁護士永井津好が破産管財人に選任された(以下、同破産管財人を「永井管財人」という。)。

2  永井管財人は、破産裁判所の許可の下に昭和六一年四月三〇日原告所有の土地及び建物を他に譲渡し、二三億六〇〇〇万円の譲渡収入を得た。原告は、これによって、昭和六〇年一一月三〇日から昭和六一年八月三一日までの清算中の事業年度(以下「本件清算事業年度」という。)において三億八一九四万一八九八円の所得を得たが、永井管財人は、法定の申告期限である同年一〇月三一日までに、被告に対して、本件清算事業年度の所得に対する法人税法一〇二条一項の法人税の申告をしなかった(なお、本件清算事業年度中の土地の譲渡益中に租税特別措置法六三条一項(ただし、昭和六二年法律第一四号による改正前のもの。以下同じ。)による重課税の対象となる部分は存在しなかった。以下、法人税法一〇二条一項に基づく法人税(租税特別措置法六三条一項による重課税の部分を含む。)を「予納法人税」と、予納法人税のうちの右重課税の部分を「土地重課部分」と、土地重課部分を除く部分(清算中の各事業年度の所得に対する部分)を「一般部分」と、原告の本件清算事業年度の予納法人税を「本件予納法人税」という。)。

3  原告に対する破産手続は、破産裁判所の昭和六三年九月七日の終結決定により終了したが、原告は、右破産終了時に残余財産を有していたので、その管理処分権を回復して通常の清算手続に移行することとなり、永井管財人から原告に対して右残余財産が引き継がれた。

4  原告は、平成元年一月一七日に残余財産が確定したので、法定の申告期限内の同月二七日、被告に対し、清算所得金額を六一六五万八九〇二円、右清算所得に対する法人税額を九五三万五四〇〇円とする法人税の清算確定申告をした。また、原告は、同日本件予納法人税につき、所得金額を三億八一九四万一八九八円、納付すべき税額を一億六〇二七万九三〇〇円とする期限後申告書を提出した(ただし、右清算確定申告は、申告書に清算中の各事業年度の予納法人税額一億六〇二七万九三〇〇円の記載がなく、清算所得に対する法人税額九五三万五四〇〇円をそのまま納付すべき税額としていたこと、及び、違算により右清算所得に対する法人税額が三〇〇円過大であったことから、被告は、後記5の本件賦課決定と同日付けで、納付すべき税額を一億六〇二七万九六〇〇円減少させる減額更正をした。)。

5  被告は、原告の右期限後申告書の提出が、その申告に係る法人税についての調査があったことにより当該法人税について更正又は決定のあるべきことを予知してされたものでないときに当たるものと認め、平成元年五月三一日付けで、原告に対し、国税通則法六六条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)、三項により、右申告に基づき納付すべき税額一億六〇二七万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて得た八〇一万三五〇〇円の金額の無申告加算税を課する旨の決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

6  原告は、本件賦課決定につき、平成元年六月二八日、東京国税局長に対する異議申立てをしたが、異議申立後三か月を経過してもこれに対する決定がなかった。そこで、原告は、同年一〇月二〇日、国税不服審判所長に対する審査請求をしたが、本訴提起時である平成二年三月二七日までに右審査請求に対する裁決がなかった。

二争点

1  本件は、原告が、本件賦課決定を違法として、その取消しを求めるものであって、その争点は次のとおりである。

(一) 破産法人に対する予納法人税の一般部分について、破産管財人に申告義務があるか。

(二) 破産管財人に右(一)の申告義務があるとした場合、本件においては永井管財人が法定の申告期限内に本件予納法人税の申告をしなかったことについて、国税通則法六六条一項ただし書の正当な理由があると認められるか。

(三) 右(二)の正当な理由があると認められないとした場合、原告に対し無申告加算税を賦課するについて基礎とすべき税額は、本件予納法人税の申告に係る納付すべき税額か、確定清算所得に係る納付すべき税額か。

2  右1の各争点についての原告の主張は次のとおりである。

(一) 争点(一)について

破産法人に対する予納法人税の一般部分は、破産法四七条二号ただし書の「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権に当たらず、財団債権とはならないから(最判昭和六二年四月二一日民集四一巻三号三二九頁)、破産法上、破産管財人が配当によらないでその弁済をすることはできず、したがって、破産管財人はその納付義務を負わない。

一般に、納税申告は適正な納税義務の履行の確保を目的とするものであるから、納付義務のない租税について申告義務を認める必要はない。

また、予納法人税は確定清算所得に対する法人税の先取りと解されるところ、破産による清算の場合には、確定清算所得が皆無であることが通常である上、資産の換価や債務の弁済について破産法に基づく規制を受けるため、清算中の各事業年度において損益の均衡を図ることが困難である等の事情があって、清算中の一事業年度において所得が生じたからといって、それと確定清算所得との間に有意な関連は存在しないし、破産法人が解散せずに継続するという事態も例外的にしか生じないから、清算中の一事業年度において暫定的に生じた所得の額とこれに対する法人税額(一般部分)とを単に確定させるためだけに、予納法人税の申告をさせることにもほとんど意味がない。

そうすると、予納法人税の一般部分について、法律上、破産管財人は納付義務を負わないだけでなく、申告義務をも負わないというべきである。

(二) 争点(二)について

(1) 無申告加算税を課する趣旨は、過少申告加算税と同様、これによって、納税義務違反の発生を防止し、徴税の実を挙げることにある。予納法人税については、右(一)のとおり、破産管財人はその一般部分を支払うことができず、その納付義務がないから、破産法人に対して納税義務違反に対する制裁として無申告加算税を賦課することは、納付義務が存在しない予納法人税の一般部分について、無申告加算税の名目で支払を強制する結果となる。

(2) 法人の清算確定申告において、清算中の各事業年度の予納法人税額を清算所得に対する税額から控除して控除しきれなかった金額があるときは、その金額に相当する予納法人税額が還付されるが(法人税法一〇四条一項五号、一一〇条一項)、右還付金には還付加算金が付されず、また、予納法人税額のうちに未納のものがあって右還付金がこれに充当される場合には、その充当される未納の予納法人税額についての延滞税は免除される(同法一一〇条三項。なお、清算所得に対する法人税について決定があった場合、又は清算確定申告について、清算中の各事業年度の予納法人税額を清算所得に対する税額から控除して控除しきれなかった金額を増加させる更正があった場合も同様である。同法一三六条一項、二項、四項)。したがって、右還付金を生ずべき清算法人(すなわち、予納法人税の額が清算所得に対する法人税額よりも多くなる法人)は、その申告に係る予納法人税額を納付しなくとも格別の不利益はなく、むしろ納付した場合よりも納付時から還付時までの金利相当分だけ有利となる。このように、法人税法が、予納法人税の申告さえしておけば、その税額を納付しなくとも結果的には何らの制裁もなく、事実上納付しないことを奨励するような不備な規定の仕方をしていることと比較して、予納法人税の申告をしなかった場合には、その制裁として、清算所得に対する税額が予納法人税額よりはるかに少なくとも、予納法人税額を基礎として無申告加算税が課されるというのはいかにも不合理であるから、法人税法は、無申告加算税を課してまで予納法人税の申告を強制することは予定していないと解すべきである。

(3) 本件賦課決定に係る無申告加算税の額は、原告の清算所得に対する法人税額の八四パーセントに当たるのみならず、本件予納法人税に対する延滞税を加えると右清算所得に対する法人税額を上回り、重加算税でさえその基礎となる法人税額の三〇パーセントであるのに比しても過酷なものである。原告自身は破産手続中、破産財団に関して管理処分権を失っていたのであるし、仮に永井管財人が本件予納法人税の申告をしたとしても、破産法上、その納付はできなかったから、本件予納法人税の申告をしなかったことは客観的に国庫に対して何らの損害をも与えていないのであって、このような事情があるのに、そのように多額な無申告加算税を賦課することは極めて不合理である。

(4) したがって、本件の場合に、永井管財人が法定の申告期限内に本件予納法人税の申告をしなかったことについては、国税通則法六六条一項ただし書の正当な理由がある。

(三) 争点(三)について

被告は、本件予納法人税についての延滞税を、確定清算所得に対する法人税額を基礎として算出しているが、無申告加算税は、延滞税と同様、付帯税としての性格を有するのであるから、延滞税の基礎となる税額を確定清算所得に対する法人税額とするのであれば、無申告加算税についても同様としなければ整合性を欠く。また、清算確定申告についての無申告加算税が確定清算所得に対する法人税額を基礎とすることと対比しても、本件予納法人税についての無申告加算税は、確定清算所得に対する法人税額を基礎とすべきである(なお、原告は、本件賦課処分が課税権の濫用であるとの主張をするが、その主張の根拠とするところは、破産管財人に予納義務がないのに本件賦課処分をしたとか、右処分は、税法の不備による難解な解釈の責任を納税者に負わせているとかいうものであって、右争点(一)ないし(三)の主張の根拠とするところの何れかと同一であり、これらの争点に対して判断すれば、右課税権の濫用であるとの主張の根拠とするところにも応答したこととなる関係にあると認められる。また、右根拠とするところを右争点(一)ないし(三)とは別個に取りまとめてこれらと独立に課税権の濫用を根拠づけるものとして主張しても、これら主張に係る事実によっては、被告が課税権を濫用して本件賦課処分をしたと認めることは到底できないので、右主張を独立の争点としては取り上げなかった。)。

3  右1の各争点についての被告の主張は次のとおりである。

(一) 争点(一)について

(1) 法人税法が、解散した内国法人(合併による場合を除く。)について予納法人税の申告、納付の制度を設けているのは、清算取得に対する法人税の課税が、清算事務が長引くことによって著しく遅れることに対する措置としての意味をもつとともに、ひとたび解散した当該法人が再び継続した場合に、遡って各清算事業年度の所得についての課税を行なう必要が生じてくるが、その際、期間の制限(国税通則法七〇条、七一条)により既に課税できない事業年度が生ずるおそれがあるので、予め各清算事業年度において予納法人税を課し、仮に当該法人が継続した場合には、予納法人税の賦課を右各事業年度の所得に係る法人税の賦課とみなすことによって、課税に空白が生ずるのを防ぐ措置としての意味をもつことによるものである。そして、法人税法が清算所得に関する諸規定において破産による解散の場合を除く旨の定めをおいていないことに照らせば、予納法人税の制度は破産法人に対しても適用されると解すべきところ、破産法人は破産財団のみをその存立基盤とするものである上、破産宣告により法人の代表者は破産財団に対する管理処分権を喪失し、右管理処分権は破産管財人に専属することになるが、予納法人税の申告納付は、破産財団の管理処分の一環と見るべきであるから、破産管財人に申告義務及び納付義務があるというべきである。

(2) 原告の引用する最判昭和六二年四月二一日は、予納法人税のうち土地重課部分は原則として財団債権に当たり、一般部分は財団債権に当たらない旨判示するが、右判決は、破産管財人の申告等に基づき破産法人について予納法人税の納税義務が確定していることを前提とし、その確定した租税債権が、破産法上、財団債権に当たるかどうかについて判断したものであるから、むしろ、予納法人税の一般部分についても、破産法人に納付義務及び申告義務が存在することを肯定したものである。

(3) 予納法人税の一般部分は、これが財団債権に当たらないとしても、破産法人には自由財産は存しないとされていることを考え併せると、優先的破産債権、一般破産債権又は劣後的破産債権の別はともかくとして、少なくとも破産債権には当たるものと解される。

そして、仮に、予納法人税が、破産法上、財団債権であるか破産債権であるかの別により、その申告義務の存否が異なるとすれば、土地重課部分の生じた事業年度に、当該部分についてのみ、予納法人税の申告をすれば足りることとなる。しかし、法人税法は、清算中の各事業年度に所得が発生するか否か、納付すべき予納法人税があるか否かを問わず、申告をしなければならないとして(一〇二条)、継続的に各事業年度の所得を計算することを予定しており、予納法人税のうちに財団債権に該当する部分のある事業年度のみについて申告義務を認め、その他の年度については申告義務を課さないというような取扱いをすることは、右(1)の予納法人税の制度趣旨に照らして、到底容認されるものではない。また、租税特別措置法一条によれば、同法六三条一項の重課税の規定は、法人税法の特例として、法人税法の規定と一体とされていることが明らかであるから、予納法人税の申告に当たって、土地重課部分のみを申告し、一般部分は申告しないというようなことは、法の予定しないところである。

したがって、破産法人につき、予納法人税の一般部分についても、申告義務があることは明らかである。なお、予納法人税の一般部分が財団債権とならないとしても、破産清算において、残余財産が生じ、通常の清算手続に移行することや、強制和議の可決、破産廃止等により破産法人が存続することもあるから、右一般部分に当たる租税債権を申告によって確定することは無意味ではない。

(二) 争点(二)について

国税通則法六六条一項ただし書の「正当な理由」とは、同法六五条四項の「正当な理由」と同義であり、納税者の法の不知や法令解釈の誤解などはこれに当たらない。そして、原告が右正当な理由として主張するところは、結局は、永井管財人又は原告の法人税法及び国税通則法の法令解釈に誤解があったことをいうことに帰着するから、右の「正当な理由」があると認められる場合には該当しない。

(三) 争点(三)について

右一(当事者間に争いのない事実)の4のとおり、被告は、原告のした清算確定申告に対し、清算所得に対する法人税額九五三万五一〇〇円から清算中の各事業年度の予納法人税額一億六〇二七万九三〇〇円を控除する等の更正をしたことにより、控除して控除しきれなかった税額に相当する還付金一億五〇七四万四二〇〇円が生じたので(法人税法一三六条二項)、同条四項により、右還付金を未納の本件予納法人税の申告に係る納付すべき税額一億六〇二七万九三〇〇円のうち一億五〇七四万四二〇〇円に充当し、かつ、右部分についての延滞税を免除した結果、本件予納法人税についての延滞税の基礎となる税額は九五三万五一〇〇円となった。したがって、本件予納法人税についての延滞税は、結果的に同額となるとはいえ、確定清算所得に対する法人税額を基礎とするものではなく、本件予納法人税の申告に係る納付すべき税額の未納額を基礎とするものであるから、争点(三)についての原告の主張はその前提を欠くものである。

なお、予納法人税に係る無申告加算税については、その基礎となる税額につき法人税法一三六条四項のような特別の免除規定はなく、また、予納法人税制度の下においては、国税通則法六六条一項の納付すべき税額が清算中の各事業年度における予納法人税額を指すことは明らかであるから、本件予納法人税の申告に係る納付すべき税額を基礎として無申告加算税を賦課した本件賦課決定は適法である。

第三争点に対する判断

一争点(一)について

1  内国法人に対しては、各事業年度の所得については各事業年度の所得に対する法人税が課され、清算が終了した結果発生することとなった清算所得については清算所得に対する法人税が課されるが、内国普通法人等の清算の途中で各事業年度のいずれかに所得が発生した場合については、当該法人等が継続した場合又は合併により消滅した場合を除き、これにその事業年度においては法人税を課すことをしないものとされている(法人税法五条、六条)。もっとも、内国普通法人等は、その清算中に発生した各事業年度の所得を、その内国普通法人等が解散していないものとした場合にその法人等の各事業年度に発生した所得であるものとみなして、その事業年度の課税標準となる所得金額に法人税法第二編第一章第二節の規定を適用すると法人税の金額が計算されるときは、当該金額に相当する法人税(予納法人税の一般部分)を納付しなければならないものとされている(同法一〇二条、一〇五条)。右予納法人税は、清算中の内国普通法人等が継続し又は合併により消滅する場合を除き、清算所得に対する法人税の予納として扱われる(同法一〇八条)。すなわち、予納法人税の申告をすべき法人は、清算が終了して清算確定申告をするについては、清算確定申告書に清算所得の金額に対する法人税の額から予納法人税の申告に係る清算中の予納額(一般部分)を控除した金額を記載した上、右控除後の金額を納付することを要し、もし、予納法人税の申告に係る清算中の予納額(一般部分)が、清算確定申告における清算所得に対する法人税の額を超える場合には、清算確定申告書に右超える金額を記載して、当該金額に相当する税額の還付を受けることができる(同法一〇四条、一〇七条、一一〇条)。

なお、内国普通法人等は、清算中に租税特別措置法六三条一項所定の土地等の譲渡による譲渡利益金が生じた場合には、清算確定申告に当たって、右譲渡利益金の額に係る同条所定の土地重課税の額を本来の清算所得に対する法人税の額に加算して納付する義務を負うとともに、右譲渡利益金が生じた清算中の各事業年度において、これに係る土地重課税の額(予納法人税の土地重課部分)を、本来の予納法人税の額に加算して納付しなければならない。右予納法人税の土地重課部分も、一般部分と同様、清算中の内国普通法人等が継続し又は合併により消滅する場合を除き、清算所得に対する法人税の予納として扱われるものであるが、内国普通法人等は、清算中の土地等の譲渡による譲渡損益の金額を通算し譲渡利益金額があるときは、これに係る土地重課税を本来の清算所得に対する法人税の額が存すると否とにかかわらず納付しなければならないから、予納法人税の土地重課部分は、右内国普通法人等が納付すべき土地重課税の額を超え過納となる場合を除き、締め切りになるものである。

予納法人税の制度趣旨は、清算所得が生ずる場合そのもととなる利益は清算中に漸次実現していくのに対し、清算事務が長引くことによって清算所得に対する課税が著しく遅れることに対処するとともに、解散した法人が再度継続した場合等に清算期間の各事業年度において課せられた予納法人税を当該期間に係る各事業年度の所得に対する法人税とみなすことによって、課税に空白が生じないようにすることにある。

2 法人税法が清算所得に関する諸規定において、合併による解散の場合を別異に取り扱う旨を定めながら(九二条)、破産による解散の場合についてはこのような規定をおいていないことに照らせば、内国普通法人等が破産宣告を受けて破産清算の手続を経る場合においても、予納法人税に関する規定の適用があるものと解すべきである。そして、破産法人は、破産の目的の範囲内においてのみ存続するものであり(破産法四条)、自由財産は存在しないというべきであるから、破産財団の主体であるほかに何らかの権利義務関係の主体たる地位を認めることはできないと解すべきところ、破産宣告により破産財団に対する管理処分権は破産管財人に専属することになるので(同法七条)、破産法人についての予納法人税の申告義務及び納付義務は破産財団に対する管理処分権能の一環として破産管財人が負うものと解される。

もっとも、破産財団に対する予納法人税の一般部分に係る債権は、破産法四七条二号ただし書の「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権に当たるものと解することはできないから(前掲最判昭和六二年四月二一日)、破産管財人は、これを財団債権として弁済することはできないし、また、予納法人税の債権は同法一五条の「破産宣告前ノ原因ニ基キテ生シタル財産上ノ請求権」に該当しないから、破産法の明文からすれば、破産債権にも当たらないこととなる。しかしながら、このことは、予納法人税の一般部分が清算終了後に発生が確定する清算所得に対して賦課される法人税についての予納であり、かつ、破産宣告後の原因に基づいて生ずるというその性質上、破産財団との関係においては、破産債権者の利益に何ら関係がないため債権者に共同して負担させるべき共益的費用の支出とはいえないのはもちろんのこと、一般の破産債権者と同等の立場で弁済されるべき債務にも当たらないということを意味するに過ぎないのであって、右のとおり、破産法人がその自由財産を持たず、破産財団の主体であるほかに何らかの権利義務関係の主体としての地位を認めることができないのであれば、予納法人税の一般部分に係る債権も破産財団に帰属するものと解さざるを得ない。そうであるとすれば、それは破産法四六条四号を準用して劣後的破産債権として取り扱われるものと解するのを相当とする。破産法四六条四号の債権が劣後的破産債権とされるのは、それが破産債権として破産財団に帰属することとなった場合においても、その性質上、一般破産債権者に優先して、あるいはこれと同等の立場で徴収し、その負担を一般破産債権者に帰属させるのが不相当であるとする考慮に基づく立法技術であると考えられ(なお、同号の債権は、租税債権などとともに免責の対象とならない。同法三六六条の一二第六号)、予納法人税の一般部分について右の述べたところと共通性を有するからである。

3  右のとおりであるから、予納法人税の一般部分は、劣後的破産債権として破産財団から、配当手続により納付されるべきものと解される。そして、予納法人税の一般部分について右のとおり破産財団が納付する義務を負うものとすれば、具体的にその義務を負う者は、破産財団の管理処分権限を有する破産管財人であることになるから、結局破産管財人は、その納付義務を負い、したがって、その前提として、申告義務をも負うこととなる。

なお、右のように解すると、破産管財人は、現実に納付されることがほとんどないと考えられる予納法人税の一般部分について申告をしなければならないという一見不合理な結果となる。しかし、本件のように破産清算においても残余財産を生じて通常の清算手続に移行することもまれにはあり、また、強制和議の成立、同意破産廃止等により破産法人が継続する事態も生じ得るのであるから、申告により予納法人税の確定を経ておくことは本来賦課されるべき法人税の徴税権確保の観点からすれば意味がないとはいえず、一方右申告自体は破産管財人にとっても重大な負担となるような事務ではないから、破産管財人に予納法人税の一般部分について申告義務を認めることがおよそ納税者に酷であって合理性を欠くとはいえない。

二争点(二)について

無申告加算税は、申告納税制度を維持するためには納税者により期限内に適正な申告が自主的にされることが不可欠であることに鑑みて、申告書の提出が期限内にされなかった場合の行政上の制裁として課されるものであるから、国税通則法六六条一項ただし書の「正当な理由」とは、期限内に申告ができなかったことについて納税者に責められる事由がなく、このような制裁を課することが不当と考えられる事情のある場合をいうものと解すべきである(因みに、納税者の法の不知や法令解釈の誤解により期限内申告書の提出がなかったというような事情は、例えば税法の解釈について期限内申告書を提出すべき当時国税当局から公表されていた見解がその後に変更された場合や税務職員の誤った指導に従った場合などを除いて、右の正当な理由がある場合に当たらないものと解すべきである)。

本件において原告が右正当な理由として主張するところは、結局、永井管財人に本件予納法人税の納付義務がないことを前提とし(このような前提の取り得ないことは右一のとおりである。)、若しく無申告加算税の制度とは趣旨の異なる制度についての例を引いて、無申告加算税を賦課した本件賦課決定を非難するものであるか、又は、単に本件賦課決定に係る税額の不服をいうに過ぎないものであって、期限内に申告ができなかったことについて納税者に責められる事由がなく、このような制裁を課することが不当と考えられる事情に当たるということはできないから、原告の右主張は、それ自体失当である。

三争点(三)について

国税通則法六六条一項、三五条二項によれば、一般に、納税者が期限後申告書の提出をした場合においては、当該期限後申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額を基礎として無申告加算税を賦課すべきものとされているところ、予納法人税につき期限後申告書を提出した場合についてこれと異なる特別の規定は存在しないから、この場合においても、当該期限後申告に係る予納法人税の納付すべき税額を基礎として無申告加算税を賦課すべきものとされていることは明らかである。したがって、仮に被告が本件予納法人税についての延滞税を確定清算所得に対する法人税額を基礎として算出した事実が存在するとしても、その当否は格別、そのことの故に本件予納法人税についての無申告加算税を確定清算所得に対する法人税額を基礎とすべきことにはならない。また、清算確定申告につき無申告加算税を賦課すべき場合に確定清算所得に対する法人税額を基礎とすることになるのも右各規定の適用によるものであるが、これと場合を異にする本件賦課決定について同様に解さなければならない根拠は全く存在しない。

第四結論

以上によれば、原告の本件請求は失当である。

(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官石原直樹 裁判官長屋文裕)

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